トーンを貼るだけで、原稿の印象はがらりと変わります。ベタとホワイトだけだった画面に濃淡やテクスチャが生まれ、いっきに「完成した漫画」としての存在感が出ます。
ただ、いざ挑戦すると「モアレが出た」「貼り目が浮いている」「印刷したら消えていた」という失敗も多い工程です。このガイドでは、アナログとデジタル両方のトーン貼りのやり方を、準備から仕上げまでひとつずつ整理します。
トーンで原稿が変わる理由と、全体の流れ
スクリーントーンとは、均一なドットや線のパターンを印刷したフィルム(アナログ)またはデジタルデータです。主に次の目的で使います。
- 影の表現: 肌・服・背景に濃淡をつけて立体感を出す
- 質感の付加: 砂目・フラワー・斜線など、素材感の表現
- 雰囲気の演出: グラデーションで光の流れや空気感を表す
アナログとデジタルで道具は異なりますが、基本の流れは共通しています。
- 貼りたい範囲を決める
- トーンを配置する(アナログ:仮置き、デジタル:塗りつぶし)
- 余分をカットまたは消去する
最終的な印刷物でどう見えるかを意識しながら進めることが、仕上がりの質を左右します。スクリーンで見るトーンと、実際に印刷されたものとでは見え方が異なる場合があるため、「印刷後の状態」を常に念頭に置くことが大切です。
(参考: CLIP STUDIO PAINT 使い方講座)
始める前に整えておく道具と環境
アナログで貼る場合
道具 | 用途 |
|---|---|
スクリーントーン | メイン素材。番号で線数・濃度が変わる |
デザインナイフ | 余白部分の精密なカット |
トーンヘラ(バーニッシャー) | 圧着して密着させる |
カッターマット | 原稿を傷めずカットするための下敷き |
ライトボックス(任意) | 透かして位置合わせに使える |
トーンの種類は多いですが、初めてなら 61線10%(薄い影) と 61線30%(中程度の影) の2種類を持っておくだけで大半の用途に対応できます。番号表記はメーカーによって異なりますが、「線数(lpi)」と「濃度(%)」の2軸で選ぶのが基本です。
購入時に注意したいのは、同じ「10%」でも線数が違うと印刷後の粗さが変わる点です。線数が高いほど滑らかに見えますが、印刷解像度が低い場合につぶれやすくなります。
同人誌の多くは600dpi印刷なので、60〜65線のトーンが適切です。それ以上の線数は印刷条件によってはつぶれることがあります。
(参考: デリーター 公式サイト)
デジタルで貼る場合(CLIP STUDIO PAINT)
デジタルでは追加購入が不要です。CLIP STUDIO Assetsで無料・有料のトーン素材が豊富に配布されており、アナログ感のある質感から幾何学的なパターンまで揃っています。
始める前に確認しておく設定:
- 解像度: 600dpi以上(印刷原稿の場合)
- カラーモード: グレースケール(モノクロ原稿)
- トーンレイヤー設定: レイヤープロパティで「トーン」にチェックを入れると、グレーが自動的に網点に変換される
デジタルはトーンのズレやはがれが起きない反面、モアレ(干渉縞) が出やすいという別のリスクがあります。特に60線以上の細かいトーンを不用意に回転させると発生するため、角度の扱いに注意が必要です。
また、書き出し形式によってトーンがラスタライズされないままになるケースがあります。PSD形式などで書き出す際は、トーンレイヤーが意図通りに反映されているか、必ずビューアーで確認してください。
(参考: CLIP STUDIO ASSETS)
トーン貼りの実際の手順
ここが最も重要な工程です。アナログとデジタルに分けて、それぞれ具体的に解説します。
アナログでのトーン貼り
Step 1|貼りたい範囲を把握する
原稿を手前に置き、どの面積にトーンを貼るかを明確にします。複雑なシルエットの場合は、シャープペンで輪郭を薄くなぞっておくと、後のカットがスムーズです。このとき、線が濃すぎると印刷に残ることがあるので、ごく薄い線にとどめてください。
Step 2|トーンを大きめに切り出す
シートから、貼りたい範囲より一回り大きく切り出します。ここで小さく切りすぎると後で足りなくなるため、余裕を持たせます。この段階での精密さは不要で、大まかなサイズで十分です。
Step 3|仮置きして位置と向きを確認する
切り出したトーンを原稿の上に乗せ、パターンの方向と角度を見ます。斜線やフラワーパターンは向きで印象が大きく変わるため、この段階でじっくり検討してください。光源を意識してグラデーション方向を揃えると、画面に統一感が生まれます。
Step 4|貼り付けてヘラで圧着する
位置が決まったら、トーンの端から少しずつ剥離紙をはがして貼り始めます。気泡が入らないよう、中央から外へ向かって押さえながら貼ります。全面を貼ったら、トーンヘラで円を描くようにこすって圧着します。ヘラを強く押しすぎると原稿を傷めるので、適度な力加減を意識してください。
Step 5|余白をデザインナイフでカットする
線画のエッジに沿って、余分なトーンをカットします。力は最小限に。刃を原稿用紙まで押し込んでしまうと修正が難しくなります。刃が鈍くなったら折って常に鋭利な状態を保つことが、きれいなカットの前提条件です。曲線は刃の向きを少しずつ変えながら、短いストロークで切るときれいに仕上がります。
Step 6|余分なトーンをはがして仕上げる
カットした余白のトーンをゆっくりはがします。境界部分がめくれやすいので、ピンセットで端を押さえながら作業します。最後にヘラで全体を再度こすると、剥がれ防止になります。
ヘラでの圧着は、カット後にもう一度行うのが安定します。カット前に圧着しすぎると刃が滑りにくくなることもあるため、「仮圧着→カット→本圧着」の順が実は合理的です。
(参考: デリーター 公式サイト)
デジタル(CLIP STUDIO PAINT)でのトーン貼り
Step 1|塗りつぶしでグレーを置く
貼りたい範囲を選択します。「自動選択ツール」で線画の内側を選ぶか、「なげなわ選択」で手動で囲みます。選択が難しい場合は、新しいレイヤーを線画の上に作成して直接グレーで塗ると手軽です。
選択したら、グレー系の色で塗りつぶします。明るいグレー(例:#C0C0C0)なら薄いトーン、暗いグレー(例:#404040)なら濃いトーンになります。この濃度が、変換後のドット密度に直結します。
Step 2|レイヤープロパティでトーン変換する
塗りつぶしたレイヤーを選択し、レイヤープロパティパネルを開きます。「効果」セクションにある「トーン」のチェックを入れると、グレーが自動的に網点に変換されます。
調整できる主なパラメータ:
設定項目 | 推奨値 | 補足 |
|---|---|---|
線数 | 60〜65lpi | 印刷に適したスタンダード |
角度 | 45度 | モアレが起きにくい |
ドット形状 | 円形 | 基本。菱形・線型も用途次第 |
Step 3|書き出してモアレを確認する
画面上の見た目だけでは判断が難しいことがあります。小さく書き出してビューアーで確認するか、表示を縮小してモアレが出ていないかチェックします。発生している場合は角度を1〜5度単位で微調整してください。
「プレビュー」機能でも確認できますが、実際の印刷イメージに最も近いのは書き出したファイルの確認です。入稿前に必ず一度やっておきましょう。
(参考: CLIP STUDIO PAINT 使い方講座)
貼ってみたらおかしい:よくある失敗と対処
症状 | 主な原因 | 対処法 |
|---|---|---|
モアレ(縞模様)が出る | 角度・線数の問題 | 角度を45度に統一、線数を下げる |
印刷するとトーンが消えた | 濃度が薄すぎる/解像度不足 | 濃度10%以上に変更、600dpi確認 |
貼り目が浮いている(アナログ) | ヘラの圧着不足 | 再圧着する。低温時は密着しにくい |
境界線がギザギザ(デジタル) | アンチエイリアスとの干渉 | 選択範囲を1px縮小してから塗りつぶす |
パターンの向きが気になる | 配置前の確認不足 | 光源方向に合わせてグラデーション統一 |
モアレの根本原因を理解する
モアレは、細かいパターンが印刷・画面の解像度グリッドと干渉して発生します。デジタルでは角度を45度に固定し、複数のトーンを重ねるなら15〜30度ずつずらすのが定石です。アナログでは、トーンシートを5〜10度傾けるだけで改善することがあります。
「なぜモアレが出るのか」を理解しておくと、症状が出たときに的確に対処できます。モアレは完全に防ぐのが難しいものでもあるため、「出たときにどう直すか」を身につけておくことが実践的な解決策になります。
(参考: 武蔵野美術大学 造形ファイル)
入稿前の最終チェック
原稿を完成させてもそのまま入稿せず、以下を確認してください。特にアナログ原稿のスキャン後は、想定外の見え方になっていることがあります。
アナログ原稿(スキャン後)
- [ ] スキャン解像度が600dpi以上か
- [ ] レベル補正でトーンの中間調が潰れていないか
- [ ] ライトを斜めから当ててトーンの浮きや気泡がないか確認した
デジタル原稿
- [ ] 解像度が600dpi以上か(モノクロ二値なら1200dpiが理想)
- [ ] トーンレイヤーをラスタライズしてあるか
- [ ] 書き出したファイルをビューアーで開き、モアレが出ていないか
- [ ] 印刷所指定の形式(PSD・TIFF・PDF)で書き出せているか
印刷所によっては「グレースケールNG・モノクロ二値のみ」という指定の場合があります。入稿前に必ずガイドラインを確認してください。対応形式が異なると入稿エラーや印刷ミスにつながることがあります。
(参考: 同人誌印刷なら栄光 入稿ガイド)
基本が身についたら次に挑戦したいこと
一通りのトーン貼りができるようになったら、次のステップに進んでみましょう。
- グラデーショントーン: 単色より自然な濃淡が出る。デジタルではグラデーションマップとの組み合わせが効率的
- トーンの削り(アナログ): 紙ヤスリや専用ペンでこすることで、柔らかいテクスチャや光の効果が生まれる
- 複数トーンの重ね貼り: 角度をずらして重ねると独特の質感が出る(モアレには要注意)
まず次の原稿で「1種類のトーンを丁寧に貼り切る」ことを目標にしてみてください。完成したときの達成感が、次の挑戦への動機になります。
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【道具より先に】デジタル漫画の描き方で押さえる基本手順を解説
制作(漫画・原稿)・ 2026年3月31日
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